
岩手県歯科医師会では、障害者や要介護者への歯科治療や支援のために口腔保健センターを設置しています。

急性期病院でのNST(栄養サポートチーム)の果たす役割の重要性は高く、NSTの充実に向けての必要性、緊急性は高まってきている。NSTに歯科医師が参加することは摂食・嚥下・口腔ケアにおいて栄養改善に直接結びつき、感染の予防、心身の向上、社会復帰に大きく貢献できると考える。しかしながら歯科医師の参加は全国的にも少ないのが現状である。 また、地区歯科医師会が地区中核急性期病院のNSTに参加することは、地域医療連携が叫ばれ、医科を中心に急性期病院から回復期病院、あるいは老健施設、在宅への地域連携クリニカルパスが構築される中、かかりつけ歯科医としてスムーズな訪問診療に移行をすることを可能にするものである。
(1)NSTとは
「栄養は全ての医療の基本」であって、栄養が低下している患者さんでは治療の効果が上がらない。近年、栄養管理に対する考え方や取り組みが重要視されるようになってきた。病院内では、他職種による入院患者の栄養をサポートするNST(Nutrition Support Team:栄養サポートチーム)が活躍している。 NSTを理解する前に栄養管理はなぜ必要かという基本を知る必要がある。栄養をおろそかにすると、Lean Body Mass(LBM:脂肪を除いたからだの質量)が減少するが、健常時の体の総蛋白を100%とすると、70%にまで減少した場合に、窒素死(Nitrogen Death)といわれる状態に陥る。こうなると、生命を維持することが難しくなる。このLBMが減少していく間に、いろいろな臨床症状や臨床所見が発現してくる。筋肉の減少、内臓蛋白の減少、アルブミンなどの減少などである。そして免疫が障害され、創傷治癒も遅れる。最終的には臓器障害に陥って死んでしまう。
栄養管理法の選択として経腸栄養と経静脈栄養がある。米国静脈経腸栄養学会(ASPEN)が推奨する栄養管理法のアルゴニズムを図に示す。消化管が安全に使えるか否かが基本で、安全に使うことができないときに経静脈栄養となり、投与期間が2週以上の場合中心静脈栄養が適応となる。
経腸静脈栄養学会では腸を使うことを重要視している。それは、腸には人間の免疫細胞の40から50%が存在し、腸を使わないことによる腸絨毛の廃用萎縮によって免疫機能が低下するからである。
(2)歯科医師がNSTにかかわる必要性
栄養管理の鉄則は、できるかぎり消化管を使うことで意味のない絶食期間を作らないことである。消化管を安全に使えるときは経腸栄養を行うことになる。さらに、NSTでの経腸栄養管理に携わる際に重要な目標は、「経口摂取こそ最高の栄養法」であり、栄養管理の最終目的であることを決して忘れないということである。
急性期における摂食・嚥下障害による低栄養の改善のために鼻からチューブで胃、十二指腸に直接栄養剤を注入する方法(NG法:naso-gastric tube diet)で栄養確保することがある。しかし、チューブが鼻腔、咽頭、食道に留置されることにより周囲組織が機能低下し廃用萎縮が生じる。長期留置により更なる摂食・嚥下障害を招くし口腔を含めチューブ周囲が不潔になることによる誤嚥性肺炎の発症も招く。長期の摂食・嚥下障害の場合は胃痩造設(経皮内視鏡的胃痩増設術、PEG:percutaneous endoscopic gastrostomy)が行われるが、胃痩造設しても摂食・嚥下訓練によって経口摂取が可能となる患者さんが多くみられる。介護の現場では、誤嚥の危険性を回避するために、あるいは介護負担が軽くなることのために胃痩造設のままにしておくことがある。また、なんらかの原因・疾病による食欲不振や摂食・嚥下傷害によって経口摂取ができないことがあるが、経口摂取をしないことによって口腔周囲に廃用萎縮が生じる。
奥州市歯科医師会が県立胆沢病院で「岩手県立胆沢病院での口腔診査から口腔ケアに介助が必要な患者さんの口腔内診査(N=44)」を行った。それによると、主食を1ヶ月前から経口摂取していなかった患者さんが、現在「咀嚼運動低下」と診断される確率は、経口摂取している人の9.4倍で、3ヶ月前から経口摂取していない人は12.8倍であった。口腔機能の廃用萎縮防止のために、あるいは廃用萎縮した口腔機能を回復させるために歯科医師がNSTにかかわる必要性がある。入院患者さんには口腔乾燥が多くみられた。義歯の使用状況では、残存歯10歯未満で義歯を使用している者35%であり、義歯がない者22%、家に置いてきている者9%、病院にあるが使っていない者30%であった。主食を食べている者で義歯不使用者(残存歯10歯未満)は40%であった。このように急性期病院では、在院日数も16、7日と少なく口腔内状況までは目が届かない現状であり、NSTというキーワードで歯科の介入の必要性がある。
岩手県下NST連携歯科医師会の事例検討会
司会進行 佐々木勝忠 挨拶 佐藤保専務理事 発表: 県立干厩病院での事例 辰己浩輝先生 県立北上病院での事例 高橋綾先生 県立二戸病院での事例 菅弘志先生 県立胆沢病院での事例 森岡範之先生
北村副院長・寺岡教授からのコメント
(3)岩手県下のNSTと歯科の連携状況
岩手県においては、中核地域に27の県立病院・診療センターが配置されており、徐々にNSTを立ち上げている。また県立病院・診療センター以外にNSTを立ち上げている病院は岩手医大病院、盛岡日赤病院、盛岡市立病院、一関病院、藤沢町民病院などである。歯科と連携している病院は、平成20年8月現在県立軽米病院、県立二戸病院、県立中央病院、岩手医大病院、盛岡市立病院、県立北上病院、県立胆沢病院、県立千厩病院である。しかし、盛岡市に存在する岩手医大病院、県立中央病院、盛岡市立病院は院内歯科があって、歯科医師会とNSTでの連携はなされていない。 地域歯科医師会がNSTというキーワードで連携することの良さは、病院内に歯科医師が入り込むことによって、今までのう蝕治療、歯周病治療、補綴治療、口腔外科治療などから広く全身を診る歯科医師となることである。たしかに、入院患者を診るためには、自院に来られた患者さんだけを診ているときとは違い、口腔機能医として患者さんの全身状態や栄養、口腔ケア、摂食・嚥下障害などなどの知識・技術を習得しなければならない。その壁を乗り越えることにより医療連携が進み、歯科界が抱えている閉塞をこの地域連携によって打開させる可能性がある。個人的には歯科の広さを自覚できることの良さがある。病院内の歯科医師だけでのNST連携では歯科界全体の閉塞感を解消できない。歯科界全体に広がる方法として、地区歯科医師会がNSTにかかわる必要がある。
(4)「NST連携推進のための事例集」作成研修会の開催
平成20年6月27日に「NST連携推進のための事例集」作成の研修会を奥州市で開催した。事例検討会は、東京医科歯科大学大学院寺岡加代教授が先進事例視察として県立胆沢病院に来られた日に合わせて企画した。
【県立胆沢病院北村道彦副院長コメント】 経口摂取は人間の基本的要求であり患者さんの生活の質に強く関わるだけでなく、時に生命予後にも直接関係します。従って、NST活動の中で摂食嚥下は根幹をなすものであります。学会の抄録集をみても、栄養関連学会はもとより、感染や緩和、クリニカルパスのそれぞれの学会でも摂食嚥下・口腔ケア関連の演題が急増しています。当院は平成17年3月からNSTの活動を本格的に開始しましたが、摂食嚥下の部門を担当する言語聴覚士は一人であり、マンパワーの面で不安を抱えておりました。そこに突然救世主のごとく現れたのが、佐々木勝忠先生始め奥州市歯科医師会の皆様です。油井会長の力強いバックアップのもと、勉強会の講師依頼、歯科衛生十による口腔ケアの指導、回診参加、口腔内診査など次々に活動の展開がなされました。NST活動への歯科医師参加への期待は、本事例集の示すごとくアウトカムとして結実されつつあります。多くの県立病院と同様に歯科のない当院にとって、歯科医師会のNST参加は必須と考えております。今後とも地域の患者さんの医療の資質向上に向け、連携強化をお願いいたします。
【東京医科歯科大学寺岡加代教授コメント】 県立胆沢病院のNST回診を見学させて頂き、最も強く印象に残ったのは、病棟という歯科にとっては別世界と考えていた場での歯科の先生の「自然体」でした。医科と歯科の連携のとり方は様々あろうかと思いますが、これこそが成功の鍵であると確信しました。勿論、北村副病院長のご支援と病院スタッフの方々との信頼関係があっての故と思います。また、システムが動き出すまでのご苦労、また開業と両立させるご努力、さぞかしとお察し致します。しかしそれを感じさせないところがまた「凄い!」と思いました。 先生方が獲得された新たな「やりがい」を、全国の歯科医師に発信して頂きたいと切に願っております。
(5)将来展望
地域医療連携が叫ばれる中、地区中核急性期病院のNST活動において連携している地区歯科医師会が増えてはいるが、参加している歯科医師の確保にまだまだ課題がある。時間的に大変であるが、県民に対する地区歯科医師会のあり方を考えると、しっかりとしたNSTへの取り組みが大変重要になってくると思われる。
・NSTラウンドに参加している歯科医師の報酬の問題 ・歯科医師のNST、摂食・嚥下、口腔ケアについての知識不足への対応 ・回復期病院、あるいは施設、在宅での口腔ケア、歯科治療へのスムーズな移行ができるように地区歯科医師会単位での調整
以上のような課題を抱えているが、歯科が関与する必要性を充分理解し、歯科医師の個人的な対応ではなく、地区歯科医師会で歯科医療の要望に応えられるシステム作りが急務と考える。NSTに歯科が参加する必要性を理解している医療関係者が増えていることを歯科医師はもっと考慮しなければならない。
(岩手県歯科医師会口腔保健センター事業運営委員会、調査室)

岩手県歯科医師会館に設置されている口腔保健センター事業として、岩手県の委託を受け障がい者・要介護者の歯科医療を確保するため、障がい者(要介護者)診療歯科医師を養成することを目的として「障がい者・要介護者歯科医師養成事業」を実施した。
(1)事業内容
研修者については、各地区からの推薦者とする。
○平成17年度
・第1回 平成17年11月20日(日) ワークショップ「地域における障がい者、有病者、要介護者への歯科医療・保健の課題」 ・オープニング講義1. 「障がい者有病者要介護者南科診療の概念」 岩手医科大学歯学部教授 城茂治 ・オープニング講義2. 「他職種、多職種連携のあり方」 盛岡保健所 田沢光正 ・オープニング講義3. 「障がい者有病者要介護者歯科診療の課題進め方」 岩手医科大学歯学部教授 米満正美
グループワーク ・講義 「介護予防入門一口腔機能向上プログラムの進め方一」 日本歯科人学歯学部助教授 菊谷武 ・グループワーク(課題抽出) 「地域における障がい者、有病者、要介護者への歯科医療・保健の課題」 ・グループワーク「課題杣出」までの班発表
・第2回 平成17年12月18日(日) ・講義 「リハビリテーションにおける歯科の役割」 いわてリハビリテーションセンター理事長兼所長 高橋剛 ・講義・基礎実習 「口腔ケアを多くの方に知っていただくために」 いわてリハビリテーションセンター歯科衛生士 晴山婦美子
・特別講義 「開業医が取り組む障がい者歯科診療」(公開講座) 福岡県開業 緒方克也 ・講義 「岩手医科大学附属病院歯科医療センター障がい者歯科診療センターの実践」 岩手医科大学附属病院歯科医療センター 障害者歯科診療センター助教授久慈昭慶
・第3回 平成18年1月22日(日) ・特別講義 「新介護保険:今我々に求められているもの」(公開講座) 新潟大学歯学部教授 大内章嗣 (2)特別講義 「介護保険制度野改正について-予防重視型システムの構築-」 岩手県保健福祉部長寿社会課主任主査 熊谷正則 ・実習 新潟大学歯学部教授 大内章嗣 ・講義 「介護支援専門員と新介護保険」 岩手県介護支援専門員協会佐々木裕彦
・第4回 平成18年2月5日(日) 特別講義(岩手県歯科医学大会併催) ・講義「問題解決技法を地域で生かす 一KJ法の基本と活動評価一」 岩手医科大学歯学部助教授 稲葉大輔
・第5回平戊18年3月5U(口) ・講義 「歯科医が取り組むNSTの実際」(公開講座) 医療法人渓仁会西円山病院歯科診療部長 藤本篤士 ・講義 「NSTの重要性と病院における実践」 岩手県立二戸病院副院長 伊藤達朗 ・講義 「脳卒中の機序と予後」 岩手医科人学医学部教授 寺山靖夫 ・ワークショップ 「岩手県における障がい者、有病者、要介護者への歯科医療・保健の今後の進め方」 ・発表会 「ワークショップの成果、グループワークからの提言」
◇臨床、見学実習 岩手医科大学附属病院歯科医療センター障害者歯科診療センター、いわてリハビリテーションセンター、みちのく療育園、都南の園での臨床・見学実習の実施.
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